南華会(旧サイト)

この記事は、西暦2004年に書かれたものの再掲です。

意識状態に作用する薬草茶を研究するために、また、アルコールやカフェインの文化に対する代替案を提示するために、「南華会(なんかかい)」という会を名乗ったのが西暦2004年でした。「南華」とは、南の国の華やかな植物のイメージでもあり、『荘子』という書物の別名でもあります。茶道は「道」であり、タオイズムの思想を含むことも鑑みれば、老荘の思想から言葉を借りるのは適切であろうかと考えます。

始まりは、アマゾンのアヤワスカ茶と、南太平洋のカヴァ茶との出会いでした。いずれも、儀礼的な飲料であり、「点前」の型と作法を抜きにしては語れません。それぞれの茶会に相伴にあずかった件、前者については『南米録』、後者については『南洋録』というタイトルで纏めているところです。

霊藤茶

アヤワスカは、中国語では、意味をとって「死藤」、そのお茶のことは「死籐水」と表記します。ケチュア語の「aya-huasca」は「死者・精霊」+「つる植物」という意味なので、意訳としては間違いではないのですが、「死」という言葉はやや誤解を招きやすいところです。たしかにアヤワスカ茶の体験は、ときに臨死体験のような様相を帯びます。そこでの「死」とは、「死と再生」という、積極的な意味であり、それは中毒になって肉体的に死ぬということとはまったく別問題です。「死」を「霊」に入れ替えて、「霊藤(レイトウ)」とすると、どこか不老長寿の霊薬のようです。そしてそのお茶を「霊藤茶」とするのはどうでしょう。

華和茶

カヴァは、中国語では「卡瓦胡椒」と書くそうです。カヴァはコショウ科コショウ属の植物なので、後半の「胡椒」は、そういう意味です。前半の「卡瓦」は音訳ですが、「卡」には「抑えつける」といった否定的なニュアンスがあるので、あまり良い漢字ではありません。南華会では、カヴァ茶を「河和茶」と書いていたこともありましたが、その後、その作用が「心ははんなりと華やぎ、体はほっこりと和らぐ」ものであることから、これを「華和茶」と表記することにしました。

聞茶

サン・ペドロは、「聖ペテロ」という意味であり、中国語でペテロは「彼徳」になるので、はじめはこのお茶を「彼徳茶」と表記していました。しかし、サン・ペドロには、園芸品種としての和名「多聞柱」がありますから、まずは「多聞茶」と呼ぶことにしました。多聞天毘沙門天(Vaiśravaṇa)の別名でもあります。なおペヨーテの園芸名は「烏羽玉」ですから、そのお茶は「烏羽茶」とでもなりましょうか。

薄茶と濃茶

また、南華会を立ち上げたときには、カヴァ茶を「薄茶」、アヤワスカ茶を「濃茶」と呼びました。前者は誰にでも気軽に振る舞える、後者はごく近しい者どうしで回し飲みをする、より密教的なお茶、という意味です。薄茶を点てるよりも、濃茶を点てるほうが、より高度な知識を技能を要求されます。

 

華和茶の法的状況

しかし、その後、カヴァ茶は肝臓障害の副作用の疑いから、日本では薬事法で管理されるところのものになりました。欧州や豪州も同様です。一方のアメリカではサプリメントとして一般に販売されています。それを少量、個人的に購入し、個人的に使用するぶんには、日本では医薬品の個人輸入とみなされます。個人的なお茶会は、法的にはグレーです。

2007年、ハワイ大学マノア校民族植物学研究室のDavid Reedy研究員が、日本でカヴァ茶会を行うため、日本に向けてカヴァの根を持ち出そうとしたとき、蛭川と共同で、在ハワイ州日本国総領事館を経由して、あらためて日本の厚生労働省への問い合わせを行いました。個人消費を超えて、他人に振る舞うことは、たとえ儀式ではあっても、薬事法が禁じるところの「譲渡」に該当する、との判断を受け取りました。その後、南華会は、日本国内での華和茶会を停止しています。

ただし、華和茶の肝毒性については、それほど重篤ではないとして、欧州では見直しが始まっており、日本でも法律の見直しが行われることを希望しています。

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明治大学紫紺館一階、太平洋諸島センターで展示されている、サモア独立国政府から贈られた、カヴァ(サモア語ではアヴァ)の根の粉末と、タノア(茶碗))

聞茶から発見された天然の共感薬

一方、2008年には、サン・ペドロの有効成分として、分子構造がMDMAに類似する、ロビヴィンなどのエンパトゲン(共感薬 enpathogen )として作用するアルカロイドが新たに発見されました。こうした共感作用を含むアルカロイドの作用については、まだ未知の部分も大きいのですが、メスカリンの含有率が低い品種であれば、エンテオゲン entheogen というよりは、むしろエンパトゲンとして、十分に少量であれば、華和茶の代わりに「薄茶」として嗜める可能性が模索できそうです。MDMAについては、日本では芸能人が「合成麻薬」を乱用した、という類いの興味本位の情報ばかりが流布している残念な現状がありますが、アメリカなどでは、臨床試験が進み、PTSDの治療に有効であるといった、前向きなエビデンスが集積されつつあるようです。

CE2015/10/11 作成
CE2020/10/28 最終更新
蛭川芳立